物販業界もパラダイムがシフトしている。
「業績悪化と事業多角化の成果が出ていないことの責任を取るためだ」。三越伊勢丹HD幹部は、大西氏の辞任をこう説明する。
伊勢丹出身の大西氏は2012年2月に社長に就任。百貨店業界の不振が続き、他社が集客力ある外部テナント導入にかじを切る中、業界の盟主として独自商品の開発など自前の百貨店事業にこだわった。一方で、婚礼やレストラン事業に本格参入するなど多角化にも取り組んだ。
しかし、百貨店事業を支えてきた中国人客による大量の買い物(爆買い)が16年に入ると失速。16年の全国百貨店売上高は6兆円を割り、ピーク時の6割まで減少した。とりわけ百貨店事業の占める比率が高い三越伊勢丹の業績悪化が目立ち、17年3月期連結決算で本業のもうけを示す営業利益は前期比27・5%減の240億円に落ち込む見通し。3・1%増の高島屋、6・3%減のJ・フロントリテイリングに比べると苦戦が顕著だ。
大西氏は、昨年9月に三越千葉店(千葉市)など三越2店舗の閉店を決めるなどリストラにも着手したが、収益は改善しなかった。さらにリストラ対象の店舗が多い三越の出身者から不満も出て、大西氏の求心力は低下。社外取締役からも「交代は当然」との意見が出され、任期途中の社長交代につながった。
三越出身の石塚邦雄会長(67)も経営責任を取り、6月の株主総会後に退任する予定。大西氏は株主総会までは取締役にとどまる。
4月1日付で社長に就く杉江氏は1983年に伊勢丹に入社。経営戦略本部長を務め、大西氏の片腕として、リストラなど構造改革路線を補佐してきた。社外取締役からも「若返りで打開を図るべきだ」との声が出て新社長就任が決まった。
ただ、トップとしての手腕は未知数だ。杉江氏は5月にも新たな中期経営計画を発表する予定で、新社長の構造改革案が反映される。ただ、考え方は大西氏に近いとみられ、「百貨店事業中心だった大西氏の経営をある程度踏襲する可能性があり、早期の収益改善は難しいのではないか」(アナリスト)との声も出ている>(以上「毎日新聞」より引用)
苦戦しているのは都市部の旗艦店だけではない、地方の百貨店も閉店ラッシュを迎えている。中国観光客の爆買いがカンフル剤となって一時持ち直していたが、カンフル剤はカンフル剤でしかない。
爆買いがなかったとすれば百貨店は売り上げ減少が持続的に続いていた。つまり百貨店が個人消費の花形ではなくなりつつあるのだ。
米国では郊外型大型店舗を全国的に展開してきたウォルマートが次々と閉店している。米国のエコノミストたちは「道路販売」は旧式の販売形態になった、と論じている。
それにとって代わっているのがネット通販だ。日本でも広告宣伝費の50%以上がネットに使われているという。かつてのマスメディアが圧倒的だった広告宣伝費のシェアを明け渡している。
物販でもパラダイムがシフトしている。かつては駅前商店街が物販の主役を担っていたが、それが郊外型の大型店にシフトした。しかし大都市や地方の主要都市では駅前の百貨店が老舗として大看板を張っていたが、ついに構造的な顧客離れが起きているようだ。
その主要な原因は駅圏内の定住人口が減少していることが挙げられよう。かつては大きな荷を抱えて電車に乗る人を見かけものたが、最近では百貨店の紙袋を抱えて電車に乗る人を滅多に見かけなくなった。
公共交通機関の貧弱な地方ではもっと顕著だ。買い物籠を抱えて歩く人はまず見掛けない。いたとしても近くの駐車場まで歩く人に限られる。
車社会になって駐車場を持たない駅前店は顧客離れが進んだ。結果として駅前商店街が壊滅し、今度は郊外大型店が車離れしている老人や若者たちから見捨てられようとしている。
ヤマト運輸がこの秋へ向けて料金値上げを行うようだ。ネット通販の広がりで莫大な荷物の増加に人手が間に合わなくなっているからだ。今後もネット通販は増加の一途をたどるだろう。
政府は物流のあり方を真剣に検討すべきだ。この国の物流の基軸を社会インフラとして整備する必要がある。その基軸に乗り入れる形で民間物流企業が配送を受け持つ形態にして、物流の効率化を図るべきだ。
かつて国鉄貨物が物流の基軸を担っていた。鉄道が物流から撤退して半世紀近く経ったが、もう一度鉄道貨物を見直してはどうだろうか。この国の未来について、物流のパラダイムが変化していることに国家としてシッカリと対応すべきだ。