貧困の連鎖を断ち切れ。

<今回の住宅に関する調査結果には、想定を超える衝撃があった。それは実家を出ることが最大のリスクであるということだ。 親と同居する理由で約半数を占めるのは、「家賃が負担できないから」であった。
 賃金や収入が低く、家賃を払いたくても払えない若者は、親に依存しなければ生きていけない状況が見えてくる。特に、低所得であればあるほど、親と同居している。 そして、所得が低く、親と同居しているほど、結婚の予定がないと回答している。 若者自身が実家を出ることを賢明ではないと判断し、そこに居続けること以外に選択肢がないと考えている。

 家を借りられないから実家から出られない。これは実家がある最低限の生活は保障するが、自由な生活を奪う「牢獄」として機能しているといっても言い過ぎではないと感じる。そして、若者が結婚できない理由も少子化の原因も、不思議なことに住宅に関する質問から浮かび上がることが興味深い。
 低所得層に対する家賃補助制度がほとんどない日本における課題といえる。住まいは、まさに人々の生活の基礎で、それが侵されると健康で文化的な生活を送ることができない状況が見えてくる。

 さらに、学歴が関係ないということも新しい発見であった。一般的に、低学歴の若者は、所得が低く、学歴と所得の相関関係は極めて高い。 だから、人々は一般的に、可能であれば大学など、高等教育を受けて、収入を得られやすい仕事に就くため、有利な条件を整えようとする。しかし、低所得で親と同居している若者にとってはあまり関係がないようだ。
 大卒でも低所得であり、住居を自由に選択し、自分らしい生活をおくる選択肢が提供されていない。これは非正規雇用の拡がりによる低所得が要因だが、大学など高い学費を求める教育機関の意義を問う内容でもある。

 要するに、若者は大卒でも貧困に至っている。これは事実である。そして、その貧困に大学ではなく、親がともに対抗し、サポートをしている。 そして、学齢期のいじめや不登校などの経験を有する人が多いということにも驚きだった。
 フランスでは、このいじめや不登校の問題を社会的排除という用語で説明し、その状況が続くと、貧困や低所得と密接な因果関係を有するようになるとみている。学齢期や幼少期に社会的排除を受けると、まさに自立を阻害する要因として、根深くその傷跡が人生に突き刺さることを意味している。

 私が所属するNPO法人ほっとプラスには、親が子を支えきれなくなり、親子で相談に来られる事例がある。あるいは親から「出て行け」と言われて、ホームレス状態になって相談に来られる若者もいる。 親のサポートがなければ、なすすべなく容易に貧困に至る若者の姿が見えてきた。
 今回の調査ではそれが裏付けられる結果となった意義は大きい。同時に、低所得層の若者は、精神疾患や生活課題を抱えており、住宅について考える余裕がない。
 約3割の若者は、うつ病などの精神疾患を抱えていると回答している。すでに働いて生計を維持することに困難な要因を抱えており、住宅だけでなく、生活全体を親が支えている。 親がいなくなった後の生活を想定すると、何らかのサポートが必要となるのは明らかだ。

 しかし、日本の社会福祉制度は、この現役世代あるいは稼動年齢層ともいうべき、若者に対する支援が極めて弱い。若者の貧困対策は、概ねとられておらず、企業に委ねてきた。 その企業が十分な賃金を払わず、身分が不安定だとしたら、ということは想定していない。
 ただし、希望がないわけではない。これらの若者を含むようにして、2015年4月から生活困窮者自立支援法が施行される予定だ。
 この法律はこのような若者を包摂し、支援できるだろうか。この法律をきっかけにして、さらなる社会福祉制度の充実、すなわち若者が潜在的に求める一般的な家賃補助制度の創設や低家賃の住宅創出という新たな支援策を構築することができるだろうか>(以上「ビッグイシューHP 藤田孝典・文」引用)

 若者の貧困は日本の未来に関わる深刻な問題だ。企業が労働分配率を引き下げ、政府が最低賃金の引き上げを怠ってきた。そして介護職などの人手不足が「賃金の低さ」に起因しているにも拘らず、政府は『外国労働者移民』で解決しようとしている。それでは日本の若者の貧困は解決できない。むしろ貧困を固定化し、さらに悪化させるだけだ。
 貧困の連鎖も見逃してはならない。安倍政権は子や孫への一千万円を超える生前贈与を非課税にする制度を創設したが、その制度が利用出来て課税を逃れられるのはごく一部の富裕層だけだ。老人世帯のすべてが多額の貯蓄を蓄えた裕福な人たちではない。一部裕福な人たちの富を子や孫へ継承させるだけだ。

 貧困から脱却したいと望むすべての国民が努力に応じて貧困から脱却できる国家にすべきだ。かつては日雇い労働者もそれなりの日当を手にしていた。しかしいつからか日雇い労働者の賃金が低く抑えられ、日当仕事では貧困から抜け出るのが困難になっている。
 そうなった時期にグッドウィルなどの「労働派遣会社」が脚光を浴びた。派遣会社に登録していればなんとか仕事を斡旋してくれるが、その賃金を生活の糧として明日を見通すのは困難だ。その日暮らしの暮らしを実家で送って、気が付けば独り者で中年を迎えている、という現実がある。

 日本の企業経営者はいつからか労働者を労働を提供する労働力とみなすようになっている。つまり『工数』の一コマとして原価にカウントされるコストとの側面だけを見るようになっている。その労働力にも「人生」があり、同時に「日本の未来」が懸っている、という事実を見落としている。
 国内で労働力の再生産が困難なら、外国人労働者を移民すれば良い、という論理は日本国民の未来を見ていない。派遣業は「多様な働き方」を提供するのではなく、労働に従事する人たちを一面的な「労働力」に貶め、人間を『工数化』するものでしかない。

「恒産なくして恒心なし」は現代でも真理だ。かつて日本が高度経済成長できたのは「多様」な派遣業が日本にあったからではない。正規社員として若者たちが就職して安定した身分保障の下で結婚し子育てをしたからだ。
 安価な労働力は短気的に企業収益を最大化するかも知れないが、安定的な経営に資するとは思えない。海外展開した家電企業がオセロゲームのように黒字から赤字に転落しているのも、あながち国内の優秀な日本国民労働者を無視したのと無縁ではない。

 労働力は『工数』の一部であって、企業の改善や生産ラインの合理化提案を行わない。『工数』は分の良い仕事があれば簡単に企業を渡り歩いてしまう。いかに熟練していたとしても、その熟練した技により彼らは企業から離れていく。
 なぜ優秀な日本国民を雇用しないで、多くの企業が海外展開したのだろうか。安価な労働力がそこにあるから、というのならなぜ安価な労働力に相当すべき生産性を上げる努力を従業員とともにしなかったのだろうか。安易な経営者たちが日本の若者たちから未来を奪っている。

 社会的責任を自覚しないバカな経営者は日本に必要ない。株主配当だけに関心を持つ経営者は投機家たちに洗脳された歯車に過ぎない。哲学なき経営者は経営の場から去るべきだ。
 継続する日本社会を堅持するために、政治家は何を成し、経営者たちは何を成し、そして労働貴族と化した労働組合幹部たちは労働環境が次々と破壊されている惨状を目の当たりにしていつまで沈黙を続けているつもりなのだろうか。現代の貧困の責任はあなたたちにある。


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