経済成長なき物価上昇は単に景気の悪化を招くだけだ。
インフレターゲットは経済政策の市場に対する効果測定の目途として掲げるべきもので、デフレ経済からの脱却として掲げるべきものではない。そこは決して主客転倒してはならない大事な点で、インフレターゲットを設定してから政府がやおら景気対策に手を打つようであっては困るのだ。
まず必要とされるのは規制緩和と強硬な円安誘導だ。たとえば土地取引に関して様々な法が存在して、直ちに土地取得に動いても原野や山林が整地されて工場などとして利用されるまで一年はおろか二年ほどもかかるのが通例で、そこに農地が絡んでいると農地転用に不必要な時間が取られてしまう。そうした様々な規制を緩和もしくは撤廃するだけでも経済的効果は上がるだろう。
補正予算で安倍氏は10兆円ほど組むと言っているが、一体どんな事業に10兆円も必要とされるのか明確にすべきだ。これまで民主党政権の財政運営を水膨れだと批判していた自民党は財政出動で一体何をするつもりなのか。
10兆円も真水を用意するとしたらカネの通り道をキチンとしていなければ、官僚たちの餌食になって方々に「基金」として積み立てられ、復興予算と同様にシロアリの餌場にされてしまうだけだ。政府が行政組織を通じて短期的に10兆円も消化するとしたら制度事業をフル回転するしかなく、官僚たちは年末年始の特別ボーナスを新政府から与えられたようなものだ。
カネがないなら知恵を出せば良いのだが、自民党政権は伝統的な自民党の経済対策から抜け出ていないようだ。安倍氏は「自民党は変わった」というが何も変わっていないのではないだろうか。
官僚たちが手にしている許認可権を大胆に切り込まなければ民間活力は加速されようがない。民間経済と全く関わりのない高速道路などは民営化したが、それは新たな官僚利権を焼け太りさせただけに終わり、かえって維持管理・安全費を削減して利用者の命を奪う結果になっている。
税制も大きく転換すべきだ。たとえば法人税に一部外形課税を採り入れ、赤字でも企業の社会的責任として一定の経費を負担すべきだ。外形課税を従業員給与と連動して従業員給与が売り上げに比して低く抑えられている企業は地域に対する貢献度が低いとして外形課税率を上げ、従業員給与として企業活動の果実を充分に分配している企業に対しては外形課税を軽減する、というように税制を通じて大企業が内部留保を積み上げる方向に傾斜して従業員供与分配率を下げる歯止めを設けるべきだ。現在でも住宅取得軽減措置が所得税にあるが、そうした政策的な税制を法人税にもっと理念として採り入れ、海外へ移転した工場などを国内に取り戻す方策を講じるべきだ。そうしない限り今後とも国内の空洞化は進み、長期的には経済のダウンサイジングを招いてしまうだろう。
社会保障制度は原則として「負担は応能負担で、給付は一律支給に」を明確に打ち立てるべきだ。特に年金は暮らせない年金を一掃して65歳まで頑張れば公務員でなくても非正規社員などで厚生年金に加入していなくても、日本国民ならすべて押し並べて暮らせる年金を手に出来ることが必要だ。それが社会的な安定に繋がるだろう。その財源は恵まれた高給取りたちの望外な年金を一率化して引き下げれば十分に出る。隠居生活にまで現役時代の職業が影響を及ぼすとは、なんという愚策な国に暮らしているのだろうか。
最後にもう一度確認しておく。経済成長なきインフレは国民生活を圧迫し、景気のさらなる悪化を招くだけだ。経済成長戦略とその処方箋がまず先にあって、経済成長率の範囲内でインフレターゲットや金融緩和は語られるべきだ。先にインフレターゲットが突出し、金融緩和をして金融市場をジャブジャブにしても、それを吸収する民間企業の投資意欲が低ければ、国債に転嫁されるだけだ。それでは金融緩和も何もならない。まずは金融政策で一体何をやるつもりなのか、中身の政策を安倍氏は語らなければならない。