政治は国家の成長戦略を提示すべきだ。
薄日が差している、という景気観測は正しいのだろうか。生活者の実感として景気に薄日が差しているとは思えない。相変わらず不透明などんよりとした曇天というべきではないだろうか。なぜ「どんよりとした」曇天なのか、理由は明快だ。はっきりとした成長戦略が政府になく、国民にどの方向へ日本丸は進んでいるのか分からないからだ。
景気に対する大きなマイナスの不安要因はいうまでもなくユーロ危機だ。欧州の金融が委縮して新規投資へ向かっていない。その代わり垂れ流したユーロが金融市場にだぶついて、安定通貨の円買いへ向かわせている。しかし株式市場はユーロ危機が再燃しかねない状況から投資家が手を引いている。日本国内企業にとっては株式市場を通しての資金調達は国難になるし、輸出すればするほど赤字になる、という最悪の状況にある。
それでも内需拡大を提唱する評論家がいる。既に外需はGDP比に占める貿易割合が14%台にまでトコトンまで落ち込んでいる。これ以上削減することはできないし、中国や韓国が35、36%ほどなのと比較して、それほど諸外国に気を使う必要があるのかと疑問を抱く。
それなら内需拡大の有効策とされた「高速道路無料化」をなぜ評論家諸氏と大手マスコミは批判の嵐でブッ潰してしまったのだろうか。社会実験とされた一部無料化の地域経済に対する刺激はいかほどになったのか「社会実験」の検証結果はまだ公表されていない。
全国の首都高などを除く高速道路無料化が実施されれば数兆円の経済効果をもたらすことは既に分かっている。それのみならず地方の交通体系から地方都市や田舎の交通事故が減少することも分かっている。しかし年間2兆円の高速道路経の維持・管理費と借金返済をどうするのか、という議論がある。だが2兆円のうち半分は人件費だ。したがって無料化に当たって考慮すべきは1兆円の借金返済だ。それと経済効果による税収との比較になるだろう。ただ高速道路建設の借金総額約50兆円は国家の赤字国債としてカウントされているから、無料化したからといって新たに国家の赤字国債が増えるわけではない。
今年のGWの高速道路利用者と大都市周辺観光地の落ち込みが報じられている。その代わり新幹線の利用者がやや増えたようだが、高速道路無料化による大都市周辺の観光地や温泉地へ家族連れが気軽に車で出掛ける方が、いかに地域社会にとっても良いかを考えなければならない。もちろん国内物流にとって原価削減効果は大きいだろう。ツアーバス業界にとっても朗報だろうし、安全に関して高速道路無料化の経費減を充当すれば良いだろう。
人やモノが動きなければ景気は上向かない。無料化にすればあらゆる高速道路利権が解消される。世界と比較して距離当たり料金が異様に高い高速道路料金は決して正当なものだとは思えない。むしろ世界では高速道路は原則無料だ。
この国の官僚たちは何か一つ事業を始めるとたちまち「一家」を作って利権化して官僚たちが囲い込む。そして四の五の理屈をつけて利権構造を永遠に維持しようとする。その悪辣さは2009民主党マニフェストの官僚利権構造に抵触する項目をことごとく撤回させたことから明らかだ。子供手当もそうだしダム建設の凍結もそうだ。子供手当も少子対策という面だけでなく、人口政策だから当然成長戦略の一環であったはずだ。
官僚の横暴を許して、この国に斬新な成長戦略は描けない。自然エネルギーは原発に代わることはできない、などとさっそく御用評論家や御用学者を動員して大手マスコミは広報している。「自然エネルギー利用技術開発」を成長戦略の一部に位置付けて国家プロジェクトとして行えば必ず世界に通用する成果が得られるだろう。円高対策も「円」の政府支出によって世界の通貨量に対抗しない限り、解決されないだろう。政府にとって必要なのは「消費増税」ではなく、成長戦略に基づいた景気対策だ。景気が良くなれば税収は放っておいても増える。