貿易の自由化は推進すべきだが、為替レートへの投機も抑制すべきだ。
このブログ欄で何度も書いたことだ。貿易の自由化には関税の引き下げおよび撤廃は必須条件だが、為替相場が投機対象となって短期資金が貿易決済額の十数倍も雪崩のように注ぎ込まれ為替レートを歪めている。わずか数%の関税の扱いを議論しているその裏で、実質的な貿易障壁が30数%も立ち上がっているのでは何のための自由化か意味が分からない。
強いて意味を考えれば、為替レートの歪みは決済額の変動に過ぎないが「自由化協議」は物品だけの関税引き下げにとどまらない、サービスや投資の自由化を目論んでいるのか、と勘繰らざるを得ない。
貿易自由化が相手国の主権を認めた上での話し合いなら「完全な自由化」があり得ないのは当然のことだろう。相手国には相手国の行政の仕組みや社会の成り立ちの様々な歴史と仕組みがある。それらをすべて米国流に改めることが「貿易の自由化」だとは思わない。しかしこの国にも大手マスコミをはじめ熱烈な米国流崇拝者がいて「米国流への変更」が自由化であり素晴らしい社会構築に欠かせないと吹聴している。
現在の米国が果たして好ましい社会だといえるだろうか。統計によると米国の貧困層といわれる4人家族年収は2万2314ドル(170万円)以下の人たちが4,618万人と人口の16%に達し、医療保険に加入していない人たちが4990万人いて子供の4人に1人は空腹だという。こうした社会を作ったのは凄まじいまでの市場原理によ結果だ。その仕組みを日本に持ち込んで米国当局やこの国の官僚や大手マスコミたちは何をやろうとしているのだろうか。
日本には日本国家としての主権があり、そこへ何人と雖も土足で踏み込むことは許されない。TPPが現実にどのようなものなのか、実際に例がないのなら、周回遅れでも構わない、他国が実施してからその実例をじっくりと検証して後に参加すれば良いだろう。後から参加してはならない、と煽る連中の真意は何かを冷静に考えることが必要だ。
今後のTPP よりも現在の1ドル76円という異常な円高をこそ日本政府は世界に向かって「不当だ」と訴えなければならない。投機による市場価格形成原理を捻じ曲げても良いという現在の風潮に世界は何処まで付き合うつもりだろうか。
為替レートだけではない、たとえば原油価格がある。潤沢な投機資金を動かせる者が原油市場を操作して莫大な投機利益を上げているのは知られているが、その反作用として原油輸入各国民はバカ高い原油を購入させられている。北半球が冬へ向かって原油価格が高騰し、春先になると鎮静化する、という価格変動をここ何年も繰り返している。
もっとも潤沢な投機資金を持っているのは米国の投機家たちだ。何しろ彼らは世界基軸通貨の発行権を持つ米国当局に極めて親い関係にある。資金がなくなればドル紙幣を印刷するFRBの輪転機を高速回転させれば済む話だ。米国は米国経済の裏打ちのないドルを世界にタレ流している。漫画ドラエモンでジャイアンが大きな顔をして暴れまわっているのは漫画世界では滑稽だが、現実世界で米国ジャイアンが暴れまわるのは迷惑千万だ。そこへ近頃は中国ジャイアンが加わろうとしている。そうした動きを規制するのが国際会議の在り様ではないだろうか。
貿易立国たる日本で自由貿易を反対する道理はなかなか得られないから、大手マスコミや官僚たちは「自由貿易」を錦の御旗にして米国に擦り寄ろうとしている。その様は自立心のない人間に阿る犬のようだ。
本当の自由とは自立の中にこそある。米国の傘の下に引き籠っている日本に自由など、そもそも存在しないのだ。たとえばイランとの原油掘削権益に関して米国のイラン制裁に御付き合いして日本が放棄せざるを得なくなり、その後釜にちゃっかりと中国が座ったことを日本国民は忘れてはならない。米国と無原則に付き合って日本に良いことばかりでないことを学習したはずだ。学習効果のない者を「馬鹿」という。冷静な検証により日本は賢い外交を取り戻そうではないか。