党内融和とは「黙らせること」ではない。
民主主義とは手続きのことである。各人が平等に意見を言い合い、いろんな考え方に対して認識を深め、結論を得たならそれに従う、というのが民主的な手続きだ。
増税論議で異論百出したとして、直ちに党内融和により増税路線が頓挫した、という論評は木を見て森を見ていない論評だろう。
増税論議そのものよりも経済・景気回復を優先すべきだ、という議論があっても不思議ではない。現在税収が落ち込んでいるのは景気が悪く企業収益や個人所得が悪化しているからだ。それでは直接税よりも消費税を柱とした間接税に課税すれば税収は増えるではないか、という議論があるが、むしろ景気を失速させるのではないかという議論もある。
消費税の増税が景気を失速させるという因果関係は橋本内閣の時に経験している。景気が少し上向いてきたとして3%から5%に税率を上げた途端に消費が冷え込み、景気が悪化したことがあった。消費税はGDPの4割以上を占める個人消費に課税をするため、消費が冷え込めば景気に大きな影響を与えるのも否めない議論だろう。
税調にそうした意見が出るのは当然のことで、それを以て「党内融和」が破綻したというのは皮相な見方だろう。それなら意見の異なる人とは何も議論できないことになる。つまり民主主義の否定につながる危険な見方だといわざるを得ない。しかし、大マスコミはそう見るのだろう。テレビの報道番組などで雁首を揃えた評論家やジャーナリストたちから異論百出することは殆どない。MCの取り纏めを予測したようなおざなりの論評を加えて終わるのを常としている。それでは視聴者の認識は深まらないが、テレビは視聴者を賢くするものではなく大マスコミの意見に染めることなのだろうから、異論は出ないようにしているのだろうし、そうした人選をしているのだろう。しかし、それは民主的とはいえない。少数意見でもコメンテータが発言して、世間には様々な価値観を持った人たちがいることを知らせる方が遥かに民主的な報道番組だろう。
党内融和が崩れる、と囃し立てる大マスコミは小学校のホームルームのような報道を繰り返してきた学習効果だろう。記者たちの感性は確実にシャンシャン報道で劣化している。むしろ問題なのは様々な意見が出ることこそ民主的な手続きの第一歩なのだと伝えない大マスコミの姿勢そのものだ。