米国のディープ・ステートという「闇の政府」は存在するのか。
< 「世界を支配する闇の政府」はいつ登場したのか 使い古された策略を生まれ変わらせるには、新たな名前をつけるという手がある。アメリカの保守派の政治家たちは、秘密結社イルミナティの代わりとして、新たな架空の敵「ディープステート」(闇の政府)を生みだした。このディープステートは、支配からの解放という大義のもとに、事あるごとに非難を浴びている。 ディープステートというフレーズが最初に使われたのは、第一次世界大戦後のトルコでだった。オスマン帝国の消滅後、ケマル・アタテュルク(1881〜1938)は1923年、近代的なトルコ共和国を建国した。 これに対し、民主主義に反対する保守派の集団が1950年代に結成され、「国家の内部における国家」と名乗った。主に暴動を扇動する軍人から成る集団で、政府関係者を共産主義者と見なして攻撃し、この集団の過激派は数千名もの犠牲者を出したと言われている。 1970年代になると、ソ連からの亡命者たちが「KGB(国家保安委員会)はソ連政府を操るディープステートだ」と主張しはじめた。ソ連崩壊後、ロシアを最終的に掌握したのが、元KGBのウラジーミル・プーチン(1952〜)だったというのは、なんとも皮肉な話と言えよう。 次にディープステートというフレーズが登場したのは、アメリカのバラク・オバマ大統領(在位2009〜2017)の任期後半にあたる2014年。元共和党の議会補佐官マイク・ロフグレン─―2011年に引退してからは、共和党をあけすけに批判するようになった─―が『Anatomy of Deep State(ディープステートの解剖)』という論文を書いたときだ。 トランプの出現で変わったこと ロフグレンの描くディープステートはこれまでとは違い、「政府を堂々と操る、財界および産業界の富豪のリーダーたちのネットワーク」だった。 ロフグレンの論文によると、ディープステートは「秘密の陰謀組織ではなく、ありふれた光景の中に潜んでいて、白昼堂々と活動している。結束の強いグループではなく、明確な目標があるわけでもない。むしろ政府全体に広がり、民間セクターにまで入りこんだ、無秩序に広がるネットワークだ」という。 ロフグレンにとって敵は、金融街のウォールストリートとIT産業の中心地シリコンバレーだった。ロフグレンの語る概念─―「政府全体に広がり、民間セクターに