「現代日本の戦争議論」を考察する。
< 右も左も、理屈がおかしい 白井 戦争論の再構築を日本が進めるにあたり、さしあたりまず何が必要だと考えますか。 保阪 防衛省と防衛大学校の軍事論に終始している限り、日本は旧軍の弊害から抜け出ることができません。いま、民間から真っ当な軍事論を打ち出す必要がある。 軍の要諦である命令示達や軍人教育といった戦略は、むしろ非軍事的な領域に根拠があります。急がば回れ。迂遠な方法であるように思えるけれど、非軍事的な国民の側からこそ新しい軍事論を編み出さなければいけない。戦後日本は右派も左派も軍事をまともに研究してきませんでした。 白井 ご指摘に同感です。「自衛隊は軍隊とは異なるのだ」というのが日本国憲法の建て前ですから、そもそも日本には軍事が存在しないことになっています。安全保障関連の法律を見回しても、そもそも「軍事」というカテゴリーが欠如している。 にもかかわらず、日本はNATOに「パートナー国」として参加し、NATOはアジアで初めて東京に連絡事務所を置こうとしているなんて報道もある。NATOという組織は、まさに集団的自衛権による軍事同盟にほかなりません。日本には軍事が存在しないのにもかかわらず、NATOと軍事同盟を結ぶのかよ、という話です。 もし近未来に日本がNATOの枠組みに正式に加入するなんてことになれば、政府の側としてもゴマカシがきかなくなる。正面切って憲法を改正して「日本には軍隊が存在するのだ。軍事が存在するのだ」とはっきりさせる必要が高まるわけです。 逆に言えば、今は「日米安全保障条約にも日米同盟にも軍事的性格はない」という建て前でやっている。 保阪 その理屈を右派も左派も共有していたから、国民の側からの、非戦のための軍事論が生まれようがなかった。 白井 こんなワケのわからない理屈に、アメリカは今までつきあってきた。岸田大軍拡が進む中、この理屈は通用しなくなる。日本の「変わらざるジレンマ」を見直して、もう一度、日本の軍事的な再編成を再考しようとする勢力が出てくる。政界で言えば清和会的なる勢力です。極めて幼児的な右翼的心情が跋扈していて、もちろん彼らは歴史修正主義者でもある。 それに対して日本の左派ないしリベラル勢力は、「憲法9条を守れ」と連呼するばかりです。保阪さんが言う「現代史の節目」を迎えた今、本来であれば保守もリベラルも真面目に安全保障論議をしな