マイナンバーカードに保険証を統合して何が良くなるのか。

 国は2024年からマイナンバーカードに保険証を紐付けを目論んでいるという。或いはマイナンバーカードに保険証の機能まで乗せようとしているのか、そこのところは今後の制度設計次第だろう。しかし保険証の電子化が先に行われてなければ何の意味もない。
 しかし現行保険証がICチップ化されていないし、全国医療機関のカルテが電子化されているわけでもない。レセプト管理も併せてカルテと同一のシステムで処理しなければ二重手間になる。そうした様々な点からこの段階でマイナンバーカードに保険証の機能を付与する、と国会議員が決めるのは早計に過ぎはしないだろうか。

 たとえばもっとも簡単な全国民に振り付けられている保険証の番号をマイナンバーカードで読み取らせるだけなら、決してIT化などといえる代物ではない。むしろ保険証をマイナンバーカードに紐付けしたために、新たに増える国民負担に高齢者や過疎地域住民が耐えられるのか、といった問題がある。
 なぜなら保険証は年度ごとに役所から個々人に送付されてくるが、マイナンバーカードは五年毎に更新しなければならない。その際に写真を撮って役所へ出向いて手続きをするか、あるいは電子申請をしたとしても受け取りには役所へ出向かなければならない。私の暮らす周南市の場合は本庁へ行くことになっているが、165㎢もある「広大な市域」から本庁舎へ出掛けるのは一苦労だ。

 実施したとしても、国民に何のメリットがあるのだろうか。メリットらしいメリットなど何もないのが現実だ。評論家たちはマイナンバーカードさえあれば印鑑証明から住民票まで近くのコンビニで取れる、と力説するが、一般国民にとって印鑑証明や住民票(それらは出先の役場支所や出張所で取れるが)は滅多に必要としない。しかもコンビニなどは近くにない。
 郵送で届けてくれる保険証があれば、別に暮らしに困らない。マイナンバーカードがなくても暮らしに困らないが、持てば五年毎の更新手続きが必要となる。

 そして保険証付きの万ナンバー導入に関して、対応する側の問題もあるだろう。医院や病院窓口にマイナンバーカード読み取り機を備えなければならなくなるし、ネット回線を引かなければならなくなる。手書きのカルテを書いていた医師もパソコンでカルテを打ち込まなければならなくなる。微細な部位をカルテに書き込むのに、ドローイング・ソフトを使わなければならないだろう。
 闇雲にIT化を推進する連中は恐らくIT化現場では泥臭い手続きを必要とすることを知らないのだろう。IT化が効率的であるためにはIT化現場の人たちがIT化するためにパソコンを打ち込み、すべてのデータを電子化しなければならない、という手間暇を考えたことがないのだろう。

 試しにスーパーやドラッグストアのレジに一日立ってみるが良い。キャッシュレスと称して様々な電子決済方法をカード会社や携帯各社が開発したため、様々な機器をレジ担当社員が使っているのに気付くだろう。決してキャッシュレス決済が早くないことを思い知るに違いない。つまりキャッシュレス化はレジ担当者の労力削減には役立ってないし、レジ決済にかかる時間の短縮にすらなってない。しかも様々な端末機を揃える経費やカード決済会社に支払う経費がIT化のネックであることを、IT化を推進する能天気な政治家や官僚たちは知らないのだろう。
 同様のことを医療現場の医師に強いるか、医師が書いたカルテを電子データ化するIT担当職員を配置する必要が生じてくるだろう。それは医療費削減よりも、医療費の増加をもたらし、医療現場の非効率化をもたらすだろう。百害あって一利なしとはこのことだ。保険証の現行制度の何処に欠陥があるというのだろうか。マイナンバーカードの普及が遅々として進まないことに苛立った政治家が暴走するのを国民は止めなければならない。レジは現金決済の方が遥かに便利で、店側にも負担のかからない制度だということを知らなければならない。

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