外国人労働者もまた日本人と同じ人間だ。

 外国人労働者の受け入れ拡大が議論される中、法務省の「失踪」技能実習生への聞き取り調査が話題となるほか、外国人との「共生」を声高に唱える報道がなされている。しかし、まずは見るべきものがある。それは、技能実習生が会社から出る/逃げることは「失踪」という言葉で簡単に言い表せない複雑なものである上、会社から出た技能実習生がインフォーマルな労働市場で働き、そこでもまた搾取されながら日本経済を支えているという現実だ。この状況を無視し、「共生」を実現することはできない。
 会社から逃げたことのある技能実習が「次の仕事」を見つける際のルートと手段をみていると、派遣会社や個人のブローカーなどから成るブローカーシステムを使う例が散見される。ブローカーシステムを利用する場合、仕事が見つかる可能性は高いが、後述するように手数料は決して安くはない。
 そもそも会社から出るということは、リスクが大きく、逃げたくて逃げるような技能実習生などそうそういないだろう。
 ベトナム人が技能実習生として来日するには、仲介会社(送り出し機関)に高額の手数料を借金して支払うことが一般的だ。この手数料の中に保証金が含まれることもある。保証金は契約期間が終わり無事帰国すれば戻ってくるが、会社から逃げた場合は返ってこない。来日前には渡航前研修センターで数カ月、長いと1年近くにわたり日本語研修を受け、その上で面接を経て来日する。時間と手間をかけ、各種の手続きを経て来日するのだ。来日後も通常は監理団体の施設で1カ月間の研修を受ける。それからやっと実習先企業で就労となり、働きつつ借金を返済していく。貯金できるのは借金を返し終わってからだ。技能実習生は制度的に職場を変えることができず、会社から逃げれば、技能実習生は在留資格、仕事、住まいをすべて失う。そして、たとえ逃げたとしても、仕事が見つからなければ、借金返済も家族への仕送りもできない。技能実習生の「失踪」ばかり注目されるが、こうした構造の中で技能実習生は問題があったとしても、借金や保証金のため容易には逃げたくても逃げられないことを見る必要がある。
 そして、日越間に構築された移住産業により借金漬けの労働者として来日し、過酷な労働を強いられた末に会社を「脱出」したスアンさんのケースでは、公的部門からの支援が十分ない中で皮肉にもインフォーマルなブローカーシステムと労働市場とが、窮地に立たされた彼女の行き場になってしまったのだ。
 同時に、彼女が食品会社で行っていたのは、ごくごく普通の仕事だ。私が聞き取りした他の技能実習生のケースでも、会社から出た後に従事していたのは食品加工、農業、宿泊業、建設業などごく普通の仕事だった。逃げた技能実習生が万引きなどの犯罪に手を染めるケースが報道されているが、それよりもむしろ、技能実習生が会社から逃げる背景を把握するとともに、逃げた技能実習生が「堅気の仕事」に従事し、結果的に日本の産業を支えていることを見るべきだろう。
この会社の給与は本来、月20万円程度になるはずだった。だが派遣会社はここから寮費や水光熱費、送迎費、ユニフォーム代などとして計7万円程度の「手数料」を引いていた。手取りは月1213万円になった。
 
 日越間に広がる借金漬けの労働者を作り出す移住産業だけではなく、逃げた技能実習生を取り込むブローカーシステムもまた、外国人労働者からお金を搾り取る。
 
 とはいえ、これも皮肉なことに、技能実習生として正規の在留資格で働いた際は、朝3時までの長時間労働を休みなく続けたにもかかわらず、手取りは89万円のみ。派遣会社に月に7万円もの手数料を徴収されたとしても、彼女の労働状況と収入は技能実習生時代に比べて改善していた。
 この会社で数カ月働いた後、スアンさんは別の会社に派遣される。そちらも食品関係の工場だったが、就労時間は朝6時から夜の6時までの12時間となった。やはり20万円ほどの月給から、寮費、水光熱費、送迎費、ユニフォーム代など計7万円が差し引かれ、手取りは1213万円だ。
 他方、技能実習生が会社から逃げるのを可能にするのは、インフォーマルな労働市場の存在があるからこそだ。在留資格外の就労をする逃げた技能実習生を雇用する雇用者が存在するからこそ、技能実習生の中に逃げることに希望を見出す人が出てくると言える。
 派遣会社は確信犯的に逃げてきた技能実習生に仕事を紹介し、代わりに手数料をとっていたが、スアンさんの派遣されていた食品会社2社については、彼女が逃げてきた技能実習生であり、技能実習以外の仕事をすることが違反だということを知っていたかどうか分からない。ただ、ほかの逃げた経験のある技能実習生のケースでは、派遣会社経由ではなく直接雇用されており、会社側は在留資格外の就労であることを認識していた。
若い働き手であり、稼ぐという明確な目標を持つ外国人労働者は、正規だろうが、非正規だろうが、ありがたい存在となっていただろう。中小・零細企業をはじめ日本の各産業部門では、技能実習生や留学生、日系人、日本人と結婚した外国人をはじめとする外国人労働者は以前からなくてはならない存在となっている。
 最近は愛媛県の縫製会社で働く女性技能実習生から相談がきました。彼女たちは残業代どころか、給与をきちんともらっておらず、ここ3カ月間の給与は合計でも4万円だけ。1カ月分ではなく、3カ月分です。毎日大量の仕事をしても、これしか収入がなく、来日して1年以上経ちますが、家族に仕送りもできません。通帳、パスポート、在留カードも会社が実習生から取り上げた上、近くのスーパーに食べ物を買いに出ただけで、怒鳴られ、外に出ることができない状態です。自転車の鍵も会社に取り上げられています」と説明する。

 日本政府は会社から逃げた技能実習生をその理由いかんに問わず「失踪者」と呼び、取り締まりの対象にする。そして在留期限が切れれば「不法就労者」と呼び、技能実習以外の仕事をすれば「不法就労者」と位置づける。逃げた技能実習生の中にはスアンさんのような過酷な状況から悩んだ末に会社を出た人がいる。その人たちは未払い賃金を取り戻すなど、自身の権利回復を図る必要がある、しかし、筆者の聞き取りでは、労働組合など支援者に保護されない限りは、逃げた技能実習生は最終的に当局に拘束され、権利回復できないまま、強制送還により日本の領土の外に投げ出されただけだった>(以上「巣内尚子氏ルポ「逃げる」」より引用)


 長々と引用させて頂いたが、上記「巣内尚子氏ルポ「逃げる」」に記載されている内容が「外国人労働者」の実態だ。「技能実習生」という名を付しているが、それは体の良い「外国人奴隷」だ。そうしたビンハネ稼業が幅を利かす社会へ日本を急速に変貌させているのが安倍自公政権だ。
 かつてヤクザがシノギ(カネを稼ぐ)ために労働者を「タコ部屋」に押し込めて自由を奪い、企業へ「派遣」して給与をピンハネしていた。そうした「派遣業=悪」だという認識から派遣業を厳しく取り締まる法律を作った。しかし小泉・竹中「構造改革」以来、なんやかやと屁理屈を付けては「派遣業法」を緩和してきた。

 最初は「特殊・専門分野」に限って限定的に派遣を認めるというものだった。たとえば通訳とか電算機技術者といった分野に限定されていた。しかし当時ですら「キーパンチャー派遣」と称して事務職の女性を派遣して「派遣業者」がピンハネすることが横行していた。
 その後の異常な派遣業法の緩和はご存知の通りだ。そして今では労働者の「労働対価」すら企業が勝手に「出来高」を決めて、その出来高に到達するまで自由に労働時間を延長できる「出来高制度=残業無料法」まで制定される出鱈目さだ。「働き方改革」で労働市場は何でもありの肉食野獣が野に放たれたサバンナと化した。

 そしてトドの詰まりが「外国人労働者移民法=入管改正法」だ。派遣業者という「ピンハネ・ヤクザ」利権を肥大化させるために後進国の若い外国人を「奴隷」として日本に移住させようとする法律だ。
 移民ではない、と安倍自公政権は説明しているが、国際社会では「一年以上外国で暮らす者」を移民という。五年以内の「在留者」は明白な移民だ。安倍氏が「移民ではない」といえば「移民」ではない、と信じる自公国会議員の小学生並みの知能には驚く。

 「外国人労働者」を審議する前に技術研修生の「失踪」問題を解決しなければならない。それが物事の順序というものではないだうか。なぜなら「外国人労働者」も特殊技能「一号」とか「二号」といった技能習得によって差別するというのなら、まさしく技能実習が前提となるからだ。
 大した仕事もしない口先だけで誤魔化して総理大臣の椅子に六年間も居座っている安倍氏にならって、自公国会議員諸氏も言葉遊びだけで国会議員の仕事が完結すると勘違いしているようだ。
 失踪した技能実習生を食い物にしている連中の存在を知らないというのなら、彼らに「外国人労働者移民」法案を提出する権利もなければ審議する資格すらない。「外国人労働者」もまた日本国民と同様に家族があり愛する者がいる人間だ、けっして「労働力」などてはない。

 だからこそ、安易に経済界の言いなりになって外国人労働者を輸入してはならない。人手不足であるなら、AI化を推進して生産性向上で乗り切るべきだ、と経営者たちをなぜ政治家諸氏は叱らないのか。経済成長するためには労働生産性を上げるしかなく、それは省力化を図ることでもある。決して人手不足を外国人労働移民で穴埋めしてはならない。

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